水山は五台山と加古川を挟んで西に対峙する双耳峰だ。母が十九山と呼んでいたので、私もそ
う呼んでいたが、清住では水山と呼ばれていた。慶佐次盛一著「兵庫丹波の山」でも水山をとって
いる。三角点もなく、標高も定かではない。
小学生の頃、水山と五台山を眺めながら登下校し、二つの山を勝手にライバル同士に仕立て上
げ、五台山の方が低いと知ったときはがっかりしたことを覚えている。
最近、地元のスポーツイベントで、上新庄の穴地蔵から安全山へ登るという催しがあったというこ
とを知人から聞き、2000年3月に見つけられなかった穴地蔵さんを訪ねたいという思いがつのっ
た。道が整備されているはずである。
今回は、上新庄から穴地蔵・水山を経由して紅葉の円通寺へ下りる予定である。
私の車を下山地の円通寺近くに置きに行く。紅葉祭り用に駐車場の案内があるが、お寺から離れ
た道路脇に置き、もう1台で上新庄へ向かう。
ここは以前勤務していた地域でなつかしい家々が並んでいる。
ペンションモニカの案内板に従い車を進める。鹿除け柵を開け、林道を進むと二股に分かれ、四
角い石碑がある。さらに右の道を進む。倒木は片づけられ、口の院 地蔵山と書かれた石仏の近
くに車を停める。
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地蔵山 口の院 と書かれた石仏 |
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穴地蔵への道 |
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いったい穴地蔵はどこから登るんだろう?561mpピークの南斜面にあるらしいが・・・。とコンク
リートの林道をキョロキョロしながら登っていくと・・・。
林道が終わると山道となるが、整備されよく踏まれている。「こんな道なかったよねぇ。」100m
も歩かないうちに、道は谷の向こうに続き丸太の階段が見える。誘われるように歩いていくと、つ
づら折れのいい道。整備はされているが、昔からの道を歩きやすくしているようだ。「穴地蔵はこの
道にちがいないね。」
はやる心に足も躍る。 |
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大きな岩に穴 |
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穴の中には・・・ |
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20分ほど歩いた頃、大きな岩が目に入る。もしかしてあれが・・・。予想したとおり、そこが穴地蔵
だった。岩の前にお地蔵さんと南無阿弥陀仏の石碑。岩のそばには何かが立っていたような平坦地。
岩の中を覗いてみると小さな石仏が祀ってある。「この石仏が昔からあった石仏かなぁ?」 周囲の
雰囲気から考えて今ある石仏とはちがうものがあったような気もする。ようやく訪ねることができた穴
地蔵さん。寺跡ともいわれているが、それにしても狭いように思う。
穴地蔵から下を見ると、我々が歩いてきた道とはちがうジグザグの道がある。その道が安全山へ
の尾根に続く道かもしれない。我々は穴地蔵の岩の横をよじ登り、急な尾根を561pまで歩くことに
する。
落ちた枝や倒木で歩きにくいところもあるが、予想したほどでなく、ときおり木の間から薄いベール
のかかる氷上盆地を望むことができる。
尾根に合流するころ、大柿赤布が揺れている。島田さん、Mさんとともにカヤマチ山から安全山へM
TB(マウンテンバイク)で縦走されたときのものだ。
561pは低木と植林の中で展望はあまりない。樹間から丸い安全山がのぞいている。
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岩場から南 弘浪山(中央) 白山(右) |
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若葉が出ています |
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いよいよ水山へ向けて尾根を西に歩く。植林の暗い尾根から雑木が多くなり、終点の円通寺も見
える。Ca600mあたりまで来ると大きな岩がテラスのように張り出している。上がってみると、至近
に高倉、その向こうに弘浪山、白山がベールの上に浮かんでいる。もやっているので遠望はきかな
いが、西光寺山、高山・猿藪の特徴的な姿が確認できる。小春日和の柔らかな陽ざしが暖かい。
尾根の南斜面には葉を落とした木々の中にドウダンツツジの赤が鮮やか。若い葉を出している木
もある。台風で葉が落ちてしまい、冬と勘違いしてしまったにちがいない。 |
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水山への急登 |
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カヤマチ山への分岐 |
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森山・達身山へ続く尾根への分岐を過ぎると、右に五台山・鷹取山が望める。
「こっちから見ると五台山大きいなあ。」
しばらく歩き、いよいよ水山への急登。雪でズルズル滑りながら登ったことを思い出す。
登りきったところに何やら人工物が落ちている。「某国から来た風船かな?」よく見ると、気象
庁と書いてある。ラジオゾンデの一部のようだ。小さなアンテナがあり、父たぬきはアンテナに
興味を持ったようだ。山にあってはゴミと一緒なので、持って帰ることにする。
「境」と掘られた標石がポツンと置いてある。ここが水山の山頂だ。知らなければ素通りしてし
まうほどの山頂とも呼べないようなところ。父たぬきは、立ち止まりもせず先を歩いていってしま
った。
山名板も標識も何もない、そんな水山が何ともいとおしく思える。子どもの頃にライバル同士と
思った五台山は兵庫50山に選ばれ、登山道が整備され、今日もたくさんの登山者を迎えてい
ることだろう。水山は時の流れに身を任せながら静かにたたずんでいるように思える。
看板もテープもない水山のような山が一つくらいあってもいいのではないだろうか。尾根も切り
開かず、今のまま素朴な水山であってほしい、そんな願いを抱きながら境石のある山頂をあと
にする。
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カヤマチ山(左) |
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中継施設のある粟鹿峰 |
細い尾根をしばらく行くと、大柿布はカヤマチ山への尾根の方に付いている。木の間から丸いカ
ヤマチ山、アンテナを頭にのせた粟鹿峰、その手前には赤白鉄塔の岩屋山。いいねえ。
尾根は北東に向きを変える。急な下りを慎重におりて少し上り返すと、675mピーク。
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急な町界尾根を下る |
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長ズエ 三等三角点(点名 山田) |
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675mピークから尾根は東向きになるが、途中で町界尾根を北へ向かう。分岐が見つかるかと
案じたが、町界を示す赤プラ杭があり、きれいに切り開かれている。等高線通りの急な斜面を下り
きると、黄や赤のテープがある鞍部に下りたつ。Ca500ピークへ登り返し、雑木の尾根をしばらく
歩くと、長ズエ(524.5m 三等三角点 点名山田)に着く。三角点のそばは木に囲まれている
のですこし離れたところでお昼ご飯にする。伝言板を見るとOAPさんJMMさんご夫妻はこれから
粟鹿峰に登られるようだ。
まだ先は長い。コーヒーを飲むと早々に出発する。丹波の低山らしい尾根の道は気持ちがいい。
井中の谷を隔てて南に561mピークが大きく見える。つい2時間ほど前にいたところなのに、はや
こんなに遠くになった。
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561mピーク |
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ガレ場から安全山(右) 向山(左最奥) |
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地図の崖マークのところまで来ると、視界が開け、安全山や向山連山が展望できる。今日のコ
ースではいちばんの展望やね。
ここで尾根が分かれているので、間違わないようにコンパスと地形図で確かめながら386ピーク
をめざす。藪こぎをしながら下ると、破線の道が現れる。386ピークと隣のピークをまき、沼へ下り
る道と分かれて、よく掘れた道を南東に調子よく歩いていく。が、道は尾根からはずれた少し北に
あるので、302ピークへの分岐を見過ごし通り過ぎてしまうところだった。
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いい道 |
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日向稲荷 |
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なだらかな尾根を南に進み、登り返すと点名南御油(四等三角点302.1m)。展望のない植林
の中にひっそりと埋まっている。
三角点から南へ続く尾根もよさそうだが、南東に延びる尾根を下りる。よく踏まれた道があり、尾
根の先端には赤い鳥居の日向稲荷が祀ってあった。
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下りると五台山〜愛宕山の分水嶺が東に長く見えます |
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里に下りると、東に井階山、そして分水界の山々が西日をうけて長々と横たわっている。地形図
を頼りに最初の計画通り、円通寺の近くに下りることができ、父たぬきは「100点や。」、と喜んで
いる。
紅葉祭りで賑わう円通寺の前を通り車まで戻ると、フロントガラスにたくさんの紅葉が散っていた。
水山へ登山道整備の計画があると、円通寺におられた案内の女性が話しておられたが、水山は
今の姿で残してほしい。たぬきのささやかな願いだ。
車に乗り込むと、岩屋山から飛び立ったパラグライダーが近くに下りたった。穏やかな晩秋の一
日が暮れようとしていた。
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紅葉祭りの円通寺 |
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