福井県名田庄村から 芦生・三国峠へ
福井県・京都府

癒しの谷


 毎年10月の3連休は、いそべ神社の祭礼がある。最後の日、どこへ行こうかと思案していると、
小浜山の会のホームページに、名田庄村から三国峠(山)へ行くルートが紹介されている。
「ここよさそうやね。」

 家を4時半に出る。まだ暗闇の中に村々は眠り、空には星が瞬いている。カシオペアとおおぐま
座の真ん中、北極星に向かって車を走らせる。

 小浜西インターで下りる頃、ようやく空が白み始める。27号線を小浜まで走り、国道162号線
を名田庄村方面へ向かう。
 南川に沿って南へ走り、久坂で木谷へ看板に従って左(東)へ曲がる。ここからは、久田川の上
流へと車を走らせる。奧に入るに従い、道は狭くなり、人家もなくなってきた。

 皇子塚という看板で二股に分かれ、その右をさらに進む。この分岐は出合と呼ばれるところで、
昔は分校があったらしい。
 
永谷 (お寺) ここから谷沿いに歩く

 目指すは永谷という集落。しかし、永谷は廃村だという。電柱が続いている。この先に人が住ん
でいた証拠である。
 今は山仕事と釣り人、そして山登りの車くらいしか入らないだろう道。ようやく、人家が見える。
数軒あるが、どこも人の気配がない。人家の軒下の「・・・電発絶対反対」の看板がさびしく残る。

 村を通り過ぎ、さらに林道を進む。大きな石が出ていて車の腹を擦る。永谷から1kmほど走った
ところに少し広いところがあるので、ここに車を停めることにする。ちょうど西の谷が合流するところ。

 林道はぬかるみ、新しい轍のあともある。大きな栃の木、二本。堰堤のそばを通り、西への林道
が分岐するところからしばらく歩くと、林道も終点。小さな滝を右に見て、いよいよ谷に入る。
尾根にとりつく(379m) 山腹を巻く
 植林の中を歩いていると、左に滝が見える。流れはそれほど多くはない、よく見るとかなり高いと
ころから流れている。
 谷に沿って歩いていく。なかなかいい雰囲気。何度も沢を渡り返し、赤テープが示す方向へ進む。
岩が濡れて滑りやすいので慎重に石の上を歩く。水の中には小さな魚影が見える。
 

 国有林造林地の古い看板、錆びたドラム缶があるところまで来る。はて?このドラム缶は?
 ここは、地形図の379m地点で、尾根の取り付き地点である。野田畑峠の標識が導いてくれる。
しかし、その辺り一面にプラスチックの波板が散乱。一升瓶もいっぱい。石油ストーブも転んでいる。
どうも山仕事の小屋の跡らしい。とにかくおびただしい一升瓶の数。それらを横目に見ながら、尾根
を登っていく。
道標のさす方へ 野田畑峠
 地形図では、直登の道だが、実際に歩いてみると、山腹を巻きながらつづら折れに登っていく。
杉はまだそれほど大きく育っていないので暗くはないが、もう何年かすれば、暗い山道になるかも
しれない。
 頂上付近は広い尾根なので迷いやすいらしいが、黄色に黒のトラテープがポイントにあり、スム
ーズに登っていくことができた。しかし、最後で見失い、ほんの10mほどだけは尾根を直登。野田
畑峠の少し東へ出た。
 府県境尾根を西へ少しだけ歩くと、鞍部に野田畑峠の標識が見える。ここから芦生へ入る。
芦生に入る

 福井側とは全く雰囲気がちがい、ブナの葉からが柔らかな光がさしこむ。峠のそばに小さな池があ
る。目の前に鹿の死骸。芦生の土となっていくのだろう。
 なだらかな野田畑谷を南へ歩く。大きなブナの下で小休止。静かな谷にたたずむと、人々を魅了す
るわけがわかるような気がする。

 
清らかな流れ 倒木に生きる
 テープなどはないので、踏み跡や歩きやすいところを歩く。木の周りが網で四角く囲ってある。
何かの調査をしているらしい。ところどころに塩ビパイプが置いてある。この森の雰囲気にはちょっ
とそぐわないね。
 平坦な谷にゆるやかな流れ。左右の小さな谷もいい感じだ。流れを横切りながら、さらに谷を南
へ。
 倒木に生えた苔の上に小さなきのこ。木は枯れても命をつないでいる。青い実をつけた木の下
をくぐり、鹿は食べないというオオバアサガラをかき分け、野田畑湿原に出る。
青い実 アケボノソウ

 どこを歩けばいいのか、ちょっと迷っていると、湿地に入り込んでしまう。足下を見ると、にはアケ
ボノソウが群生している。踏まないように歩き、なんとか湿地から抜け出る。
野田畑湿原
 この辺りが野田畑湿原と呼ばれるところで、昔木地師が住んでいたという。野田畑谷と上谷の合
流地点である。
栃の美 中山神社

 栃の下にかわいい実が転んでいる。動物たちが見つけて食べるかな?
 地形図には川の右岸に破線の道があるが、我々は左岸を歩いて中山神社まで来る。ここから北東
に進路を変え、三国峠をめざす。
枕谷を歩く ブナの谷

 こちらは枕谷と呼ばれる谷で、なだらかな道をのんびり歩く。植林の中だが、手入れが行き届いてい
るので明るい。また、この道で、この日初めて人と出会う。「さすがにメジャーなところやね。」

 地蔵峠への分岐を過ぎると、再びブナの木が多くなり、気持ちのよい谷が続く。西の谷からご夫婦が
下りてこられ、三国峠手前の谷だと勘違い。進もうとすると、「ちがいますよ。」と呼び止められ、元の道
にもどる。この谷を登りつめると、Ca800mに出るようだ。
歩いてきた谷を振り返る 三国峠山頂

 破線の道は、北から東へ方向を変えるが、そのまま北へ歩いていく。767ピークの鞍部に出るは
ずである。鞍部手前の谷は癒しの谷。いつまでもたたずんでいたい、そんな谷だ。

 谷が二つに分かれていて、東の方から3人連れが下りてこられる。三国峠から野田畑峠へ歩か
れる予定だが、赤テープを辿っているとこの谷へ下りてきた。と言われる。地形図を見せ、我々のい
るところから左の谷を行くと767ピークの西の鞍部へ出ますよ、と教えてあげる。芦生はたくさんの
谷が入り組んでいるので、道を見失ったときには地形図が読めないと迷うことになる。少し前に出会
ったご夫婦も、年に何人かは迷う人がある、と言っていた。

 すばらしい谷をつめ、府県境尾根に出る。三国峠の西のピークに登り、東に歩く。コンパスの西と
東を勘違いし、西へ下るところだった。赤テープがあるので、きっと先ほど出会った3人連れはここを
下りてきたにちがいない。

 少し登り返し、右に長池を見ながらクチクボ峠への標識を過ぎると、ひと登りで三国峠山頂。三等
三角点(775.9m)が中央にあり、小さな石仏が置いてある。
 この地域では、山頂を峠、峠を坂と呼ぶことあるそうで、三国岳とも言われているそうだ。三国とい
う名前だが、山頂は京都府であり、福井・滋賀・京都境のポイントからは少し南へずれている。
 たくさんのプレートが揺れている。針金で固く絞めてあるのは緩めておく。
山頂から百里ヶ岳を望む

 山頂は日当たりがよく、心地よい風を期待したが、無風に近い。北東に先日歩いた百里ヶ岳が
顔を覗かせている。あれは蛇谷ヶ峰、あっちは武奈ヶ岳かな?
 少し早いが、お昼ご飯にする。朝は寒いくらいだったのでラーメンを持ってきたが、暑いくらいの
天候。でも、久しぶりのラーメンはなかなかおいしかった。

 食べていると、生杉方面から単独男性が登ってこられる。腰には、鋸、ナタ、手には枝伐りばさ
み。
「それで何をされるのですか?」と尋ねると、「いろいろ。持っていると手の届かないものがこれで
とれるんや。」
ザックの後ろにかごが付いている。男性はそのかごからペットボトルを出し、お茶を飲み始めた。
福井側から三国峠へ登るのは珍しいのか、初めて出会ったと言われる。

 すぐあとに、男性一人、女性二人の3人連れが同じ方向から到着。
 枝伐りばさみの男性に、芦生や福井・滋賀県境の山々のことを尋ねるといろいろ教えてくださ
る。
 あとで来られた男性にはエアリアマップを拡大コピーしたものまでいただいた。その方は若い頃
この山頂でテントを張って芦生を歩いたと話しておられた。

 4人は南へ下っていかれたので、我々も山頂をあとにする。
山頂直下の長池 府県境尾根を野田畑峠へ向けて歩く

 クチクボ峠への標識から西へ歩く。Ca770ピークは先ほど歩いたところだが、方向に注意が必
要である。尾根は山頂の西端から北へ曲がっている。この辺りは、福井側もブナ林でなかなかい
い雰囲気である。

 下ると767ピークとの鞍部、この鞍部から北の尾根へ破線の道があるようだが、また機会があ
れば歩いてみたい。
 767ピークから南西へ歩く。木漏れ日を浴び、福井側からの風に吹かれて快適な歩き。足下に
はイワカガミの元気な葉っぱが多くなってきた。トクワカソウもあり、春に歩くのもいいだろう。
Ca800の標識 ブナの影が伸びる

 痩せた尾根を南に登ると、Ca800ピーク。尾根はここで方向を大きく変える。標識があるので迷う
ことはないが、なければそのまま直進してしまいそうである。この山頂から南東へ続く細い尾根もい
い感じ。ブナの影が斜面に伸びている。こちらの尾根も歩いてみたいね。

 
きのこさん ユズリハの実

 登山道の真ん中に大きなきのこ。ユズリハにはたくさんの実。イワカガミを踏まないように歩いて
いく。
きのこさん ここを下ると野田畑谷

 分岐からは痩せ尾根を北西に下る。急な下りは慎重に足を運び、野田畑峠の手前のピークの東
の鞍部に着く。この鞍部から西に下りると野田畑峠の南へでる。この谷を下りようか、と提案したが
予定通り、尾根を歩くことに。
ナナカマドの実 びっしりと・・・
 赤く色づいたナナカマドの実が青い空に生える。黄葉にはまだ早いが、山は秋たけなわ。びっしり
と枯れ木に生えたきのこは食べられるのかなぁ・・。
イワカガミの尾根 野田畑峠へもどってきました

 三国峠から1時間ちょっとで野田畑峠へもどってきた。ここで芦生に別れを告げ、福井側へ下ってい
く。トラテープがなければわかりにくい広い尾根。「こんな道歩いたかな?」
登りと下りでは景色がちがい、別な場所を歩いているように思える。
金属板を喰う 谷を下る

 道が尾根から谷へ下りるところで、金属板をくわえこんだ木を見つける。植林された頃のものら
しいが、文字は消えてしまっている。

 
こちらもいいねえ 林道終点の滝
 朝歩いた谷の道をもどる。こちらの谷もなかなかいいねえ。沢の岩にはイワタバコが実をつけ
ている。
 やはり一度歩いている道、往きよりも帰りの方が歩きやすい。父たぬきは林道終点の滝で顔
を洗い、さっぱりした様子。

 車に戻り、永谷を去る。福井側からの芦生。思いがけずいい山歩きができたね。
 
 舞若道を走れば、家まで2時間ほど。ずいぶん近くなったものだ。

行った日 05 10/10(月)
行った人 たぬき二人
山行タイム 駐車地6:55〜379m地点7:35〜野田畑峠8:25〜中山神社9:20
〜地蔵峠分岐9:30〜三国峠10:25ー11:30〜Ca800m12:05〜
野田畑峠12:40〜379m地点13:10〜駐車地13:45
2.5万図 久坂 古屋  山行地図


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