緑したたる阿瀬渓谷から蘇武岳
兵庫 日高町村岡町

大幹線林道からの蘇武岳

 6月に入り、陽ざしは夏のそれになってきた。今日も天気がよい。このぶんでは当分梅雨入りはなさそうだ。暑くなると
行き先は自然に北へと向く。先週に引き続き、遠阪峠を越えて但馬入り。しかし、今日は霞んでいて展望は望めそうに
ない。

 阿瀬渓谷、たじまもりさんのレポートにたびたび出てくる地名。今日は、ここから蘇武岳へ行ってみよう。植村直己記念
館をすぎ、阿瀬渓谷の登山口、金谷に入る。集落の奥の駐車場に車を置く。すでに3台が停まっている。身支度をして、
渓谷沿いの道を歩いていく。すぐに源太夫滝という滝が左手に現れる。糸を引いたような涼しげな滝だ。
源太夫滝 あちこちに滝が・・
 渓谷には大小48の滝があるようだが、登山口にいちばん近いのが源太夫滝。写真ではわからないが、落差のあるな
んとも美しい滝だ。滝の下の遊歩道も歩きたかったが、先が長そうなので、そのまま渓谷沿いに歩いていく。

 思案橋まで来ると、道が分かれている。左に行くと洗心台経由で金山口にでる道だ。摩崖仏もあるようで、こちらのコー
スも歩きたいが、次回のお楽しみにとっておくことにし、我々はまっすぐに進んでいく。
 カラン橋からは道も細くなり山道らしくなるが、勾配は緩く歩きやすい。

 水の音を聞きながら渓谷沿いに歩く。陽光まで緑に染まるほど緑にあふれている。さまざまな名の滝が次から次へと現
れ、飽きることはない。路傍の花々を撮したり、滝をのぞき込んだりしながら、何度も深呼吸する。カジカの声が涼しい。

 不動滝の手前に、栃の原生林がある。何十年、いや何百年もここで生きてきたのだろうか。金山の人たちが行き交うの
を見ていたんだろうなあ。
不動尊 廃村(分教所跡)
 不動の滝を下に見て、少し急な石の道を登っていくと、不動尊を祀る祠が滝を後ろにして建っている。中を覗いてみるが
見えないようになっている。渓谷の水もここまで来ると少なくなっている。
 お不動さんの前に三角のトイレが設置してある。使えるのかどうか確かめなかったが、ここを歩く人のための心遣いはあ
りがたい。
 お不動さんからほんの少し行ったところに関電のダムがあり、水が少なかったのはそのためだった。ダムの水は渓谷入
り口の発電所に送られているようだ。
 この辺りが金山口。洗心台からの道と合流している。

 道は草深くなり、真夏のようなの太陽が照りつける。草の匂いとまぶしい陽ざしの中で、一瞬子どもの声を聞いたような気
がした。
 左に石垣があらわれた。田畑の跡だろう。子どもの声は空耳だったようだが、その昔、ここに暮らしていた子どもたちはど
んな生活をしていたのだろう。家族と一緒に田んぼへ行き、稲藁を背負ってこの道を歩いたのだろうか。今も清らかな川で
魚を捕ったのだろうか。今頃の季節には、山菜採りにもいったのだろうか。子どもたちに思いをはせ、草の中に埋もれてしま
った過去を想うとせつなさが増す。

 お不動尊から20分。廃屋が見えてきた。分教所跡だという。足踏みオルガンが縁側に放ってある。このオルガンでどんな
歌をうたったんだろう。
 最盛期には、1000人もの人が住んでいたというが、その面影はない。ふと見ると、大きなグミの木があり、青い実がたく
さんなっている。子どもたちのおやつだったんだろうか。食べる人がいなくなった今も律儀に実をつけている。
グミ ずっと廃村を見続けていた
 分教所を過ぎると竹藪が目立ってきた。竹の子も村の重要な食べ物だったんだろう。竹は人々の生活にもいろいろな形
で使われたことだろう。
 村のはずれ辺りで、踏み跡をたどっていると道が途切れてしまった。沢を渡らなければならないのに、右の谷に入り込ん
でいたのだ。大勢の人が迷ったのか、ずいぶん明瞭な踏み跡だ。少し道草をしたが、登山道にもどり、腰ほどある草をかき
分けて歩いていく。見上げると、ぽっかり空いた空の向こうに丸い山。草いきれの中を昔に思いをはせながら歩く。

 左に沢を見ながら竹の林を歩いていると、「ヒュルルルル・・・」というなんとも軽いさえずりが聞こえてくる。なんだろう。ア
カショウビンにちがいない。初めて聞いたそのなきごえを二度と聞くことはなかったが、その声はしっかりと耳の奥に残って
いる。

 アカショウビンの声を聞き、しばらく歩くと谷から離れ、植林の中の道だ 。峠手前の小広いところにホウチャクソウとチゴ
ユリが群生している。
緑の中を流れる 金山峠
 廃村から1時間で金山峠に出る。妙見山からの大幹線林道がすぐそばを走っている。蘇武岳へのとりつきには、お地蔵さん
が林道を見下している。摩耗しているので、表情はわからないが、なんとなく柔和なお顔のようだ。
蘇武岳への稜線から妙見山 登山道脇の自然林
 小休止して乾いた尾根道を頂上目指して歩いていく。振り返ると、妙見山がどっしりと大きい。ホトトギスが先導するように
我々の前を飛んでいく。柏の林や原生林のような自然林。登山道のすぐそばに黄色いキンランが咲いている。

 足下を見ると、辺り一面に光沢のあるイワカガミの葉。早春にはたくさんの花を咲かせたことだろう。
 どこかから車の音。音がする方に目をやると、林道が平行に走っている。「そうや、すぐ横には林道があったんや。」
立派な東屋やベンチも設置してあるので、車で来れば山頂まではすぐである。
蘇武岳山頂(一等三角点) 林道登山口の東屋
 歩き始めてから3時間半、蘇武岳(1074.4m)に到着。10人ほどの登山者がお昼ご飯を食べている。空腹を我慢して
いたので、さっそくお昼にする。
 無線機からOOSかねちゃんをコールする島田さんの声が入ってくる。重なるように日名倉山のMWTさんのCQが聞こえ
る。呼んでみるが届かない。
 
 霞んで遠望はきかないが、前の週歩いた扇ノ山のなだらかな稜線、避難小屋がはっきりと見える氷ノ山。但馬の山々は
大きく深い。反対側に目を転じると、大岡山とその上をカラフルなパラグライダー。「こんな日は気持ちええやろねえ。」

 名色側から二組のご夫婦つれが登ってこられる。聞くともなしに話を聞いていると、ことばのイントネーションが丹波弁のよ
うだ。下山のあいさつのときに尋ねると同じ郡内の方たち。やっぱりなあ。

 1時間あまり山頂で憩い、同じコースを下山する。ただし、峠までは林道を歩く。夏のような太陽に照らされての林道歩き
は辛いものがあるが、右手に氷ノ山を見ながら歩くのでつらさも半減。

 峠からは、渓谷を登山口まで早足で下山する。往きは3時間半かかったが、復路は2時間。

 自然いっぱいの阿瀬渓谷は何度でも歩きたいいところだ。黄葉の頃、また訪ねてみたい。 
 

出会った草花
赤い実 ヤマアジサイ
エゴノキ ガマズミ
ギンリョウソウ タジマタムラソウ
シオデ ヒトリシズカ
フタリシズカ キンラン
 「タジマタムラソウ」はたじまもりさんから、「シオデ」は研さんから、それぞれ教えていただきました。<(_ _)>
行った日 02 6.1(土)
行った人 たぬき二人
山行タイム 駐車場8:45〜不動尊9:25〜廃村金山9:45〜金山峠10:45〜
山頂12:15ー13:25〜林道〜金山峠14:05〜廃村金山14:45〜
駐車場15:30
参考地図 エアリアマップ氷ノ山