安寿と厨子王に思いをはせながら 由良ヶ岳
京都 宮津市 

東峰から西峰を望む


 由良川はその源流を東は滋賀県京都府境の三国岳、南は丹波氷上水分れに発している。息子の夏休みの自
由研究に、由良川の河口まで行ったことがあるが、ここを訪ねるのはそれ以来である。由良川沿いに175号線を
北上すると、丹後由良にたどり着く。我が家の上に降った雨は、やがてここに流れてくるのである。

 丹後由良は、小さい頃海水浴によく行ったところだ。由良川が運んだ砂が遠浅の砂浜をつくり、夏には海水浴
場として賑わう。もちろん今はシーズンオフなので、海岸はひっそりとしている。また、森鴎外の「山椒大夫」の舞
台となったところであり、近くには縁の史跡が多い。

 由良川沿いに175号線、178号線と走り、やっと海が見えるようになると丹後由良だ。左手には頂上をガスで
かくした由良ヶ岳が大きい。丹後由良駅をめざして左折。由良集落の狭い道を駅の案内板に沿ってゆっくり走る。
北近畿タンゴ鉄道丹後由良駅の手前で右折、線路を渡って丹後由良荘の駐車場に車を入れる。すぐ前は食堂な
のか朝食中の人がこちらを見ている。フロントに駐車の断りを入れ、身支度をして歩き始める。
 由良荘の裏手に登山口があり、標識が立っている。下の写真の右の平たいところも駐車場なので、ここに停め
てもよかったのだが・・・。
登山口 東峰← →西峰 鞍部に立つ標識
 よく歩かれているのか、道が掘れている。よく見ると砂のようにざらざらで、長石が混じった崩れやすい土質だ。
風化されずに残った岩は御影石のようである。大雨が降ると登山道が水路となるのか、それとも登山者によるもの
なのか、登山道の真ん中は溝のようになっている。

 ミツバツツジが鮮やかなピンクの花を咲かせている。シジュウカラ、ヤマガラがツツピーと晴れやかにさえずり、
まるで我々を歓迎しているかのようだ。地図もコンパスも要らない整備された道。
「こんなに楽してええんかなあ。」
「たまにはいいのとちがう。」
地形図を見ながら歩くひやひやドキドキ感はない。それほど急な道もなく雑木と松の匂いの中をゆったりと歩いて
いく。
 
 炭焼き跡を過ぎてしばらくすると、土質が黒い粘土質に変わる。それに連れて木も植林が多くなり、これまでの
明るい雰囲気が少し変わってきた。腕時計の高度計が300mをさす頃から檜の植林になり、つづれおれの暗い
道を黙々と登っていく。あれだけ聞こえていた鳥たちのコーラスも聞こえなくなった。

 植林帯の中の歩きに飽きてきた頃、やっと一杯水の案内板が現れる。ここが8合目らしい。一杯水の案内板を
過ぎると低木の中の急登。枯れたすすきが雪に倒されたのか地面に寝ている。濡れて滑りやすくなっているので
足元に注意しながら登っていく。しんどいと思うまもなく東峰と西峰の鞍部に着く。まずは、東峰に行ってみよう。

 低木の中を歩いていると、「ヒルやあ。」「まだ朝やけど・・。」「ちがう、ヒルがおるのや。」「ええー!」
足元を見ずに歩いていたのでわからなかったが、注意してよく見ると黒い軟体動物のようなものが動いている。角
のようなものもある。これはいったいなんなんやろ? やっぱりヒルなんかな?「朝にでてもヒルとはこれいかに。」

東峰山頂 虚空蔵菩薩 ガスがはれると由良川河口が
 
 鞍部から10分足らずで虚空蔵菩薩が祀ってある東峰山頂。あいにくガスって、全く展望がない。ガスがなけれ
ば360度の展望なのだが・・。携帯伝言板にそのことを書き込んだ直後、風が吹きガスが徐々に流れはじめた。
眼下に由良の町並みが見える。ガタゴトと鉄橋を渡る1両編成の列車。日本海が明るい。白い航跡を残して一隻
の船が西に向かっている。南から流れてきた由良川が、雨ですこし濁った昨日の水を日本海にゆったりとはき出
す。東に見えるはずの青葉山はまだガスの中だ。速い雲の流れが景色を刻々と変えていく。由良川の上流方面
には福知山の烏が岳と鬼ヶ城が見える。その向こうにも同じような山が見えるので双眼鏡を覗いてみると、五台
山のようだ。特徴的なギザギザの愛宕山がその左に続いている。しばらくすると、三角に尖った弥仙山も姿を現
した。近くに見えるはずの大江山の山頂は雲を纏っている。
白い航跡を残して・・ 西峰から天橋立
 展望を充分楽しんだので、そろそろ西峰に行ってみよう。分岐に戻り、なだらかな尾根を気持ちよく歩く。分岐か
ら東峰まではすぐだが、西峰までは少し距離がある。といっても10分も歩けば山頂だ。すすきや雑木で展望は東
峰ほどは開けていないが、西方面に天橋立を望むことができた。
 
 ここで昼食を、と思ってきてみたが東峰で食べる方がいいということになり、東峰に戻ることにする。朝来たとき道
にたくさんいたヒルのようなものもほとんどいなくなっていた。
由良の海岸と町 松の木のいぼ?
 再び東峰に戻り、展望を楽しみながら鍋焼きうどんをつくる。teihaiML各局をコールすると、低徘メンバー、QLV
松田さんから応答がある。かねちゃん、貴公子さんとともに、北摂天狗山を歩いておられるのだ。初めての交信だ。
しばし、情報交換をし、鍋焼きうどんができたのをしおにファイナルを送る。
 昼食をすませ、そろそろ下りようかと準備をはじめると、西峰をガスが覆い始めた。そのガスはすぐにこちらにもや
ってきて、たちまち何も見えなくなってしまった。

 分岐から濡れた斜面を滑らないように慎重に下りていく。「ここで滑ったらドロドロやね。」などとやかましく言いな
がら歩いていると、どこからか鈴の音。空耳かと思ったが、すぐ下に単独の男性が上がってこられていた。今日出会
う初めての人だ。その後、3組ほどすれちがう。

 枯れた松にいぼのようにきのこが生えている。ぽこぽこしてかわいいので撮してみる。
鮮やかなミツバツツジ 夏みかん?
 陽が差して、来たときよりもツツジがさらに鮮やかに見える。登山口に戻ると、みかんの木があり、大きな実がぶ
らさがっている。この辺りは日本海側だが、みかん狩りなどもでき、国道沿いにはみかん狩りの看板も多く見られた。

 車から振り返ると、山頂はガスに包まれ姿を隠している。結局、朝も帰りも由良ヶ岳の全貌を見ることはできなかっ
た。
 安寿と厨子王に思いをはせながら帰路についた。

行った日 02.3.30(土)
行った人 たぬき二人
山行タイム 丹後由良荘裏登山口8:05〜東峰西峰分岐9:10〜東峰9:20ー10:15〜
西峰10:30〜東峰10:51ー11:30〜登山口12:20
参考文献 分県登山ガイド 京都府の山 (山と渓谷社)